作字した理由をさかのぼる

(※これは、noteで過去に公開した記事を移植したものです。)

作字した理由をさかのぼる

メリークリスマス!GMOペパボでSUZURIのデザイナーをしているモハゑと申します。そしてこれは、GMOペパボデザイナーのアドベントカレンダー 17日目の記事です。

先週のSUZURIアドベントカレンダーでは「作字」ひとつひとつの制作過程を振り返ってみたのですが、今回は、「そもそもなぜ"作字をする"という選択をしたのか」という点について、さかのぼって考えてみようと思います。

▼先週のアドベントカレンダー

はじめに(「作字」とは何か)

まずは「作字」についての概要を、サッとおさらいさせていただこうと思います。

作字とは何か

辞書をひいてみたら、このようにありました。

さく‐じ【作字】 の解説 [名](スル)印刷で、必要とする活字がないときに、既存の活字の部分を合成したり削ったりして新しい活字を作ること。また、その作った活字。パソコンなどで、内蔵・登録されていない字体を作ることにもいう。

この記事で出てくる「作字」の意味は、後者の「パソコンなどで、内蔵・登録されていない字体を作ること。」になりますね。

では、わざわざ「内蔵・登録されていない字体を作る」のは何故なのでしょうか。

作字にはどんな効果があるのか

これは単純に、わざわざ作るという、その「手間」と、「手間によって追加された差分」がデザインに良い影響を与え、デザイン自体が新たな付加価値を持てるようになる、ということです。(当たり前のことを回りくどく言っています。)

作字することは正義なのか 「じゃあ、既存の字体を扱うのは手抜きだって言うのかい!?」と言うと、もちろんそうではありません。

SUZURIが作字を扱う理由は、ただ単に、SUZURIがたまたま「作字の効果を高めるような環境が整っているサービスだった」というだけなのです。

よって逆に言えば、この記事で紹介するような環境と「一致しない」あるいは「真逆」のサービス・媒体である場合は、デザインに作字を取り入れること自体が返ってデザインにとって逆効果となる可能性もある、ということになります。

ですので、そのようなことも踏まえて(気軽に)読み進めていただければなと思います。

SUZURIというサービス環境が作字の効果を高める理由

理由はいくつもありそうですが、今回は2つ挙げさせてもらうことにします。

❶いまいまユーザーのほとんどが日本語を使い慣れてる人だから

(※作字で扱う文字が「日本語(ひらがな・カタカナ・漢字)」である場合に限った話になります。)

わたしのような日本生まれ日本育ちの人間が人生で一番目にしてきた言語、それは言わずもがな「日本語」です。そのような環境で育ったので、わたしと同じような境遇の人は「日本語(ひらがな・カタカナ・漢字)」の字体の造形を深く理解できている、と言えます。だからこそ、「既存の日本語の字体」と「その造形に変化を加えられた作字」の差分を無意識に感じ取り、「手間」を想像することができます。

作字した理由をさかのぼる

しかし、例えば、SUZURIのユーザーさんのほとんどが「タイ生まれタイ育ちの人」だった場合はどうでしょうか。

彼らは育ってきた環境が違うので、もちろん、「既存の日本語の字体」と「作字された日本語の字体」の差分を、日本育ちの人と同じように認識できるわけではありません。

つまり、「既存の日本語の字体」と「作字された日本語の字体」の差分を認識しづらい人にとっての「作字」は、効果が薄まってしまう、ということになるのです。

また、彼らにとっては、「既存の日本語の字体」であっても十分なほど魅力を感じてくれる可能性があります。

何年か前に話題になった「極度乾燥しなさい」の件からも、そんな推測ができますよね。また、海外の人がたまにびっくりするような日本語がプリントされているTシャツを着ていることがありますが、それも似たような理由なのだろうなということを感じます。 (SUZURIがワールドワイドになったら、国によって表示させる作字画像を分岐させる、なんていう未来もくるかも知れませんね。)(ちなみに、SUZURIサイト内の一部主要なテキストは、すでに多言語対応しています。)

❷クリエイターが利用するサービスだから

これは、クリエイターが特に、「既存の字体」と「作字された字体」の差分を見抜く性質を持つ存在である、ということです。

クリエイターやデザイナーと呼ばれる人たちは、例えば、電車の吊り広告で特徴的なタイポグラフィを扱うグラフィックが目に入ったとき、それが「既存の字体」であるか否か、ということを無意識にジャッジしてしまう生き物であるように思います。クリエイターの端くれであるわたし自身も、そのような場に何度も遭遇してきました。

本来、扱われている字体が「既存のもの」であっても「作字されたもの」であっても、その吊り広告が持つ「何かしらの情報を伝える役割」はきちんと果たしているはずです。それなのに、特定の知識があるばかりに、本来は不要であるジャッジをし、そのグラフィックが伝えてくれている情報とは別の邪念のようなものが、つきまとってしまうのです。(そんなわしらはある意味損!)

SUZURIはモノをつくれるサービスであるため、たくさんのクリエイターさんが利用してくれています。SUZURI内でも、アイテムをつくってくれているユーザーさんのことは「クリエイター」と呼び、常に「目の肥えたクリエイターさんが喜んでくれるか?」ということを考えながら、サービスをつくっています。わたしの場合はアイテムを追加するチームに所属してるので、「こんなアイテムを出したら喜んでくれるかな?」「アイテムのこういうところを、クリエイターさんはもっと知りたいんじゃないかな?」というようなことを日々考えています。

そして、「作字をする」ということも、そのような「思い」の1つなのだと感じます。「既存の字体」ではなく「ちょっとの手間をかけた差分」を加えてお届けすることで、そのデザインを見ている時間が少しでもより良いものになってくれれば...と、僭越ながら願っているのです。(※もちろん購入者さんのことも同いくらい大切に考えています!そして至らない点がまだまだあるのは承知です!)

また、SUZURIは(わたしが勝手に感じてるだけかもしれないですが)、中の人間もつくることを楽しむ、ということを大切にしています。自分たちが楽しんでサービスをつくり、それを使うクリエイターさんにも楽しんでいただけるのであれば、それはもうオールハッピーアンドハッピーです。

さて、ここまでは「SUZURIというサービス自体の環境」という観点から作字の効果を高める理由を紹介しましたが、次は「SUZURIのアイテムLP」について紹介していこうと思います。

「アイテムLP」の環境が作字の効果を高める理由

アイテムLPとは、新規アイテムをPRするためのページのことです。先週の記事で紹介した作字のほとんどが、この「アイテムLP」で扱ったものです。

❶LPの構成がシンプルだから

これは単純に、ページをつくる際に「選択と集中」ができるということです。

少し前のアイテムLPでは、こんなふうに1アイテム毎に構成やデザインを考えて作っていました。シンプルに作り変えた経緯はここでは割愛しますが、とにかく、ページ自体がシンプル化したことで、ページ自体にかける労力の「選択と集中」ができるようになりました。

以前のLPでやっていたこと

  • コンセプト決め
  • 構成
  • ページ全体のデザイン
  • コーディング
  • 写真選定
  • 調整

最近のLPでやっていること

  • 写真選定
  • 調整
  • ヘッダーのデザイン(ほぼ作字のみ)

ページ全体をがっつりデザインしていたら、どうしてもタイトル字は優先順位が下がってしまいます。装飾のないテキスト情報でも必要なことが伝わる「アイテム名」にすぎないからです。 限られた時間の中で何に労力をかけるか、を選択することは、デザイン自体の効果を高めることにダイレクトに繋がるなぁと感じます。

❷作字がページの主役(アイテム)を食いづらいから

これは、「ビジュアル情報になってしまったテキスト情報(作字)」が、「本来主役であったビジュアル情報(アイテム)」と競合しにくい、ということです。

作字するということは、別の言い方をすれば、本来「テキスト情報」だったものを「ビジュアル情報」に変える行為、であります。そうなることで起こりがちな問題が、デザイン内にある「他のビジュアル情報との競合」です。

幸いSUZURIは「モノ」を扱うサービスであるため、(特にアイテムLPに関しては)写真以外のビジュアル情報がほとんど出てきません

それのどこが「幸い」なのかというと、写真は「3Dみのあるビジュアル情報」で、作字という「2Dでベタみのあるビジュアル情報」であるためです。

作字した理由をさかのぼる

それぞれ性質が異なるため、お互いの存在がバッティングすることがないのです。

さらに、SUZURIは共通したアイテムを提供しており、その共通アイテムたちにクリエイター各々のコンテンツが載っている状態を提供するサービスです。そのため「作字」と「クリエイターのコンテンツ」の間には「SUZURI共通のアイテム情報」が挟まっていることになり、直接接することがないのです。

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かなりイメージ的な話になってしまい恐縮ですが、伝わっていれば幸いです。

❸ある種「シリーズっぽいページ」だから

人って、全体構造がわかると安心して情報を受け入れられると思うのです。あぁここは並列な情報が並んでいるな、とか、見出しと本文が繰り返す構造か、など。「起承転結」というのもそれの一種だと思います。

構造を理解しているから、目の前の現象がどの段階なのか、がわかる。ある程度の枠が想像できるから、目の前の現象に安心して集中できるのです。情報処理コストを下げている、とも言えるかもしれません。

このことを「アイテムLP」に置き換えると、「アイテムの写真」と「アイテム名の作字」が目に入ってくることで、ページを見てくれた人は直感的に「新アイテムの登場だ!」という把握ができる、ということです。

作字した理由をさかのぼる

こんなふうにシリーズ的でありながら、そのアイテム1つ1つにはそれぞれの個性があり、それが「装飾を与える余地」になる。「アイテムLP」は、主役となるアイテムが毎回変わるという点でも、ページの公開頻度という点でも、デザインの「シリーズ」をつくっていくのに非常にちょうど良い存在なのです。

そして「シリーズ」という安心の土台があるからこそ、SUZURIでは、毎回作字にチャレンジする機会が得られるのです。

おわりに

以上が、「SUZURIがたくさん作字をした理由」でした。 最後まで読んでいただいて、🐹チョンマルカムサハムニダ〜!🌈

左脳を酷使するという慣れないことをしてしまったので疲労感がすごいですが、今回長々と紹介したことの中にひとつでも、誰かの何かに役立てられるものがあれば幸いです。

ちなみに、先週も今週も作字の話をしており「作字がすごい好きな人」みたいに見えるかもしれないのですが、別にそういうわけではありません。一番好きな仕事は、写真の現像です。それではみなさま、良いお年を!

次回の GMOペパボデザイナー Advent Calendar 2020 は、minneデザイナーのまいどんさんです!